コラム

おしゃれができなくても指を着飾る。ネイルが元気をくれる理由。

第五夜 ずぼらむすめの、ちいさなおしゃれ

爪がよく割れる。
もともと薄い爪なので、よく割れる。
もともと小さい爪なので、不恰好になる。
だから、自分の爪が嫌いだ。

テレビ番組で、爪を綺麗にしておくと男女問わず笑顔が増えるという特集を見た。
爪切りくらいしかしたことがないわたしは、
不恰好な爪をいくら着飾ったところで何か変わるものかと冷笑した。
わたしは自分の爪が嫌いだった。

社会に出て、仕事柄Tシャツとズボンしか着なくなった。

なら、ネイルとかしてみれば?

自分の爪も素っ裸の母からの、意外な返答。
私は冷たく、そんな時間なんてないものと返した。
私は自分の爪が嫌いだったから。

ことしの誕生日は仕事だった。
朝から終電まで、いつもの、0時40分を警戒する仕事だった。
きっと別に、特別なことはできないか、と会社の椅子に座っていると、母からまた連絡が来た。

ねえ、いま下に、プレゼント持ってきちゃった!

私が母の彼氏だったら、絶対周りに自慢しただろうし、
私が母の息子だったら、恥ずかしいから帰ってと言ったかもしれない。
暑いから、涼しいとこで待ってて!と返して、母を心配させないように少し化粧を重ねてからビルの下におりた。

母が、私を見るなり、髪、染めたんだと目を丸くして。
そういえば、もうしばらく母とは会っていなかったのかと思い出した。

久々に見る母は、小さくなっていた、わけでもなく、これから父とデートなのとかわいいワンピースを着ていた。
デートならワンピースだというところは、母の遺伝だったことを思い出した。ワンピースのおひめさまが、大きな紙袋を広げて、私に笑いかけた。

中身、なんだと思う?
ジェルネイルのキット!

母はいつも開ける前にサプライズの中身を言ってしまう人だった。
なんだか愛しくて、でも、どうしてネイルなんかと、たずねた。

だって、おしゃれしたかったんでしょ、でもできないんでしょ。
ファンデーション、よれてるよ。慌ててしてきたでしょう。
早起きできた日でいいから、ちょっとやって、何かつけたら写メしてよね。

写メなんて、スマホにはもうないんだよ、と言うと、でも写メって言うじゃないと母はムキになった。
ありがとう、うれしい。そう言って、私は大きな紙袋を小さなオフィスに運んで帰った。

次の日、私はなぜか早く目を覚ました。
その日は昼からの仕事で、時計はまだお昼の6時間前をさしていた。

原稿でもやる?気分じゃない。
仕事をする?気分じゃない。
料理でも?冷蔵庫には飲まないビールしかない。

じゃあ……ネイルでもする?

紙袋からようやくだされたキットは、あまりにも細かいものが多くて、
どれをなにに使えばいいのか見当もつかないものばかりだ。
ネットでやり方を調べる。

ネイルを嗜む女の子は爪を切る、でなくて、けずるのだそうだ。

爪やすりは5本入って、触るだけで痛いものと、本当に削れるのかというつるつるしたものもある。
私は一思いにしゅっしゅと音をたてて短い爪をととのえた。

下地を塗って、色を重ね、おまけで付いていたスパンコールをのせる。
小さな爪に大きな顔で載っているかざりが、どう思うのさと私に聞いてくるようで、笑えてくる。

やっぱりなんだか、似合わないよね。
昔したネイルよりもジェルネイルはすぐに固まって、私の爪に住むことになった。

やっぱりなんだか似合わないけど。
ネイルなんかしていったら、会社の人は笑っちゃうかもよ。
そう思いながら、早めの時間に家を出る。

定期を出すとき、
つり革を持つとき、
会社のカバンを開けるとき、
電話をしようと携帯を出したとき、
あいつらが我が物顔で私を見つめた。
わたし、きれい?って。

嫌いだったわたしの爪を、いつのまにか1日に何度も見ていた。
初めてで不恰好なのに、長持ちさせたいと思った。
初めて自分でハンドクリームを買って、爪とネイルの根元にぬった。

なんだかわたし、女の子みたい。
くふふと笑って、母に写メを送る。
母はすぐに既読をつけた。

あやちゃん、つめ、ちいさいね笑

そうだった。
わたしの母は、サプライズを知らない女だった。

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皐月彩