コラム

女子だってたまには、昔の恋を夢見たりする。

第四夜 もどりたいひは、なくならない。

私はずっと四畳半の部屋に住んでいた。
実家の時からそうだった。
一人っ子だったけれど、一人っ子だから大きい部屋をという常識は我が家にはなく、父と母と祖母の部屋のあまりの、あまり日の当たらない部屋で青春を過ごした。

暗くてジメジメしていたけれど、不幸ではなかった、
ひみつのあなぐらは、むしろ秘密基地のようでお気に入りで、
ずっとそこに居つきはしなかったけれど、悲しいときはとじこもった。

あそこに家族以外の人が足を踏み入れたことはない。
あの頃、毎晩家まで送ってくれていた彼でさえも。
けれど確か、私も彼の実家の部屋にはあげてもらえていなかったから、おあいこかなと思う。

彼と別れてから、一度も連絡を取っていない。
すれ違っても、特に言葉は交わさない。
すっかり他人に戻っていた。もう、二度と目にしないと思っていた。

でもある日、仕事帰りの電車でみかけた。
彼があの頃と同じ目をして写っている写真を。

とても幸せそうな彼の顔は、少し前の彼とあまり変わらなくて、
男の人はなかなか雰囲気が変わらないものなのだなとわたしを感心させた。
けれど、それと同時に、背中のあたりが泡立つような、そんな感覚が体を襲ったのを覚えている。

この人は、ある時期はわたしだけに弱みを見せる人だった。
だけど、今は、これからも、もしかしたら自分の前にも
私と同じように思わせていた人が彼にもいるのだ。

そう思うと、画面のむこう側にいる彼が、愛しいような、もう二度と見たくないような微妙なものになって、しばらくはどこにいても彼のことが目に付くようになってしまった。

やめなよ。
そんなことしたって、元に戻りたいわけじゃないし。
友人はそう言いながらも、私のボヤキを最後まで聞いてくれる。

今あたらしい恋人もいるし、それでも声をかけてくれる人もいる。
なのに、どうしてもう自分で踏ん切りをつけたはずの人を想うの。
そう説教しながら、最後には、わかるけどね、とつけてくれる。

うん、きっと本当に、分かってくれているのだ。

満たされて、幸せだねと言われて、それなのに、どうして今までの人たちが自分だけを見ていてくれていたらいいのにねと、わがままを想うんだろう。
なんて面倒くさい人間だろう、自分たちはと苦笑していると、でももし、戻れたら?という話に戻っていく。

もどれたら?彼と?まだ一緒にいたら。
毎晩家まで送ってくれて、毎晩好きと言ってくれた、
ずっと一緒にはいられないと思った、彼と。
いつまで一緒にいれば、こんな気持ちにならなかったのだろうか。

女の子は、次の人が現れればすぐに昔の人を忘れるとよくいう。
本当に?だとしたら、私は女の子ではないのかもしれない。

ひとりでないのに、ひとりきりな気もちになったとき
私はいつも、こんなふうに戻りたい日常を思い浮かべて
うだうだと夜の静けさをただよう。

女の子がすべての恋を、戻らなくていいと言い切れるなら、
女々しいと言う言葉の漢字は、そろそろ違う字に変えた方がいい。

じゃあ、なんだろう。

めめしい。
男男しい?ちがうちがう。
めめしい。
できれば、愛愛しいとかで、どうだろう。

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皐月彩