インタビュー

【中編】芸術の力で地方再生を―フラワーアーティスト 野咲シンジ

札幌の歓楽街すすきのを見下ろすバー「Music Lounge Brave+」。

店主であるピアニストの田中K助が今回カウンターにお招きしたのは、フラワーアーティストの野咲シンジさん。北海道出身ながら東京の一流ホテルでお花の修行を積んで独立した「お花のプロフェッショナル」です。

「芸術の力で地方再生を」という思いから、失われゆく自然や廃墟でご自身の作品と音楽、ダンス等の様々な芸術を融合させて空間を演出する「レナートプロジェクト」を主催する野咲さんの人生、そして「文化人 野咲シンジ」が考えるカルチャーについて語りました。

前編はこちら

女性の多い職種での、男性であることの希少価値

前編では、まさかの恋愛シミュレーションゲームがきっかけで進路を決めた学生時代のお話を伺いました(笑)。

 

本当なら高校でも華道部に入っておけばよかったなと思いましたけどね。

 

男子で華道部って、あまり聞かないですね。

 

いなかったです。女子ばっかりでしたね。

 

私、高校生まではピアノを習っていることを隠してましたね。昔だし田舎だし、男のくせにピアノかよって言われるので。まさか当時のコンプレックスが職業になるとは思ってもみませんでしたが。

 

僕も高校を卒業してから花の専門学校に行ったのですが、そこも女子ばかりで男は僕一人でしたね。ほら、僕ってシャイじゃないですか?

 

いや、全然(笑)。

 

当時はシャイだったんですよ。20人くらいの女子の中に一人男子が入れられて、軽く登校拒否にもなりました。ただお花屋さんにとっては男手が貴重だったので、求人が集まったのも事実です。

 

就職は困難ではなかったということですか?

 

いえ、なぜか当時の僕は上京志向が強くて。札幌で仕事をするつもりがなかったので、東京で就職を探していました。でも遊びすぎたせいで秋口に来た求人に1月に連絡をして断られてたりしてましたね(笑)。

 

ダメ人間じゃないですか!(笑)

 

それで必死で探して面接を受けさせて頂いた就職先が「ザ・プリンスパークタワー東京」に入っている花屋さんだったんですよ。

 

求人が来たわけではないんですね。

 

募集はしていなかったんです。ただ「男手は貴重だからいつでも欲しいよ」という理由で入社させて頂いたんです。そしたら、そこがすごい会社だったんですよ。

逃げ場がないからこそ続けられた

どんな会社だったんですか?

 

生け花の「草月流」という流派があるのですが、そこの先生が監修してお花を作っているところだったんです。例えば僕の作品、よく流木を使ったりするじゃないですか。そういった作風もその仕事が原点ですね。

 

私たちがイメージしている、花束を作ったり鉢を売ったりされているお花屋さんとはだいぶイメージが違いますね。アーティスティックなイメージというか。

 

ホテルに入っている花屋だったので、小売はしなかったですね。結婚式の装花制作は1000件以上やりました。土日で6~7件とか。結構キツかったですね。

 

結婚式のお花って一件一件違うものを使うんですか?

 

はい、新郎新婦と打ち合わせして決めたお花を一件ずつ作っていくので。

 

すごいですね! 相当なハードワークだったんじゃないですか?

 

週末は朝6時まで作業して、車の中で仮眠を取って7時からまた作業スタートするような感じでした。それが一番キツかったですね。

 

ハードワークに耐えられるという意味でも男手は貴重だったのかもしれませんね。

 

体育会系でしたしね。罵声は飛び交うし。花屋ってこんなに大変なのかと思いました(笑)。

 

嫌にならなかったんですか?

 

嫌になった時期もあります。ただ、東京に友達がいなくて飲みに行ったりもしなかったので逃げ場所がなかったんですね。だから逆に続けられたのかもしれません。それに地元の友達や高校時代の先生に「おまえは飽きっぽいから無理だ」と言われていたのが悔しくて「絶対に帰らねえ!」って思っていましたからね。

 

ミュージシャンもそうだと思うのですが、職人的な人って人生の中で必ず、忙しくていくつも仕事を抱えて覚えることがたくさんあって寝る暇もないという時期がある気がしますね。大部分はその時の貯金で仕事をしている気がします。

 

まさにそうですね。その時代に得たものは大きいです。

 

専門学校時代に習ったことはどうでした?

 

専門学校では何も学ばないんですよ。目的は検定を受けることなので。

 

あ、そうなんですか。なんと言う検定ですか?

 

我々はNFDと呼んでいるのですが、ええと……日本フラワーデザイナー協会、かな?

 

知らないのかい(笑)。

 

会社の面接の時に「専門学校に行ってても関係ない、ゼロからだから」って言われまして、いざ働いたら全く仕事についていけなくて「本当だ、俺、何もできねえ」って思いましたね。

 

わかります。私は音楽の学校に通いながら音響の現場で仕事をしていたのですが、先生には「現場では『知っています』と言うな」と言われましたね。多少知っていることでも「分からないので教えてください」と言った方が可愛げがあってより多くのことを教えられる。仕事はそうやって覚えて行くものだと。

 

僕が教える立場になった時に「知ってます」って言われたら「じゃあ最初からやれよ! できてないから言ってるんだよ!」と思ってしまいますね(笑)。

足して、修正。教育の極意を学ぶ

では、野咲さんはどのようにお花を覚えたのですか?

 

特に教えられたことはないですね。先輩がお花を作る時に、その横で花を渡す仕事をずっとしていました。その間ずっと先輩がどうやって花を作るかを見て覚えたのですが、ある日突然「やってみろ」と言われまして。

 

ほう! できたのですか?

 

最初からできるものではないですね。当然先輩に直されるのですが、その先輩が素晴らしかったのは、僕が差した花を絶対に抜かないんですよ。

 

花を抜かない……?

 

そう、僕の花を抜かず、そこに足して修正するんです。「抜いたら野咲の作品じゃなくなる」と。なるほど、この人はすごいな、と。

 

……はぁ、それはすごいですね! 非常に勉強になります。

 

嬉しいですよね。そう言われると、すごくやる気になります。でもその先輩のすぐ下の先輩は、僕の差した花を端から抜くんですよね。すぐにやる気をなくしてました。

 

わははははは!(笑)

 

東京でハードな現場を経験し、成長した野咲シンジさん。

次回【後編】では、北海道に帰ってきた野咲さんが現在に至るまでに決断したこと、そしてこれからの夢をお聞きします。

(撮影:ヒロカワイ)

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田中K助