インタビュー

【後編】世界で活躍する和太鼓・津軽三味線奏者―木村善幸さん

札幌の歓楽街すすきのを見下ろすバー「Music Lounge Brave+」。

店主であるピアニストの田中K助が今回カウンターにお招きしたのは、和太鼓・津軽三味線奏者の木村善幸さん。日本全国はもとよりドイツでの公演やワークショップを成功させるなど、世界中で活躍する日本を代表する文化人です。

和楽器奏者では珍しい「二刀流」で生きることを決めた木村さんの人生、和楽器を生業とする上での苦悩、壮絶な挫折から再び立ち直った方法、世界に打って出る転機、そして木村さんの考える「カルチャー」について語りました。

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ドイツへの想いと、成功体験を積み重ねるということ

中編では大きな挫折から立ち直るまでをお聞きしました。今では世界各地で活躍されるまでになった木村さんですが、どんな変遷を辿ってきたのですか?

最初の頃は北海道各地、お寺や喫茶店、屋外、いろいろなところで演奏しました。自分が出来る精一杯はここだっていうのを表現する毎日を7〜8年過ごしましたね。そうしているうちにたくさんの著名な方々と知り合うことができ、今に至ります。

ヨーロッパで公演するようになったきっかけはあるのですか?

話は遡るのですが、高校生の時に和太鼓奏者の方がベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と共演していたのを衛星放送で見たんです。

ほう、ベルリンフィルとですか!

最初、太鼓を打ち始めるとオケの人たちが全員耳を塞いだんです。うるさいから(笑)。ところが、時間が経つにつれてオケの人たちが和太鼓の方を向いて演奏するようになり、最初は見向きもしなかったお客さんが最後は総立ちで、20~30分間拍手が鳴り止まなかったんです。

それが木村さんとドイツの出会いというわけですか!

そうです! なんという国だろう、と。国や楽器に関係なく良いものに対して正当な評価をするというお国柄を目の当たりにした時、ここだ! と思ったんです。

日本だとあまり見かけない光景かも知れないですね。

良くも悪くも日本には「社交辞令」というものがあります。それは私にとっては邪魔なものでしたね。もちろん演奏に対する評価が社交辞令にならないようにしなければいけないのですが、どんなことをしても社交辞令は生まれる。でも外国に行ったら、いいも悪いも有名無名も、全てはその時の演奏の評価次第なわけです。

そうですね。反面、厳しい評価というのもダイレクトに伝わってきますしね。

たしかに現実は厳しいものでした。しかし、そういう場所に自分を置いてみたいと思ったんです。……それでドイツに飛んだんです。

いやだから、そこなんだって! 「それでドイツに飛んだんです」がおかしいって言ってるんですよ!(笑)

ずっと想いを温め続けてドイツ、ドイツと思っていたら、ドイツとコネクションがある人と出会っていったんですよ。

……あ、それ分かります。私も「この人と共演したい」って思っている人と共演できたりするんですよ。あれ、なぜなんでしょうね?

そうなるようにできているとしか思えないですね。私の知り合いの演出家さんが「ドイツに自分の弟子がいて、展覧会の主催をしている。そこで演奏してみたら?」と言ってくださって三味線を1曲弾かせてくれることになり、自費で行ったんです。それがドイツのハンブルクという町で。

今では木村さんに馴染みの深い町ですよね。

で、それとは別に東京で太鼓の専門誌を買った時、そこに「ハンブルクで活躍する和太鼓」という記事があったんです。その時点で私のハンブルク行きは決まっていたので、その記事に載っていたドイツ人の方にメールをしたわけです。するとその方から「送迎などをしますので、代わりに僕の所属するチームで太鼓を教えてくれませんか?」と連絡が来て、1個の仕事が2個になったんです。

すごいですね、そんなにタイムリーなことがあるんですね!

そしてハンブルクに行き、展覧会のレセプションパーティで弾いたわけですが、今度はそれを総領事館の方が見ていて「来年うちの事業で来てもらえませんか?」と。その繰り返しでどんどん大きくなっていった感じですね。

木村さんの思いと行動力の強さですよね。中編の挫折の話もそうですが、思いを行動に移すことにおいて全てが成功することはありえない。10の行動のうち1つでも2つでも成功すれば、というトライアンドエラーの繰り返しですよね。

そうですね。失敗の方が多い中で成功マインドを作っていくという作業ですね。

木村善幸さんのカルチャー

私はありがたいことに和楽器や民謡の方々と演奏させて頂くことが多いのですが、日本の文化を海外に発信していくツールというイメージがあります。木村さんは日本文化の発信を請け負うという立場を意識することはありますか?

めちゃくちゃ意識してますね。ドイツで教える時も、まずはテクニカルよりも精神性。魂を込めて打つのが日本の文化だと伝えます。でも精神や魂なんて言葉はなかなか通じませんね(笑)。でも伝え続けなきゃいけないんだと思います。文化のことしか考えてないですね。

私もそうですね。衣食住だけが特化した文化のように言われますが、音楽を始めとした芸術がないと人類は寿命を延ばせず、文明は発達しなかった。文明が繋がっていかないと経済は発達しない。どうすれば文化に携わる人の社会的地位が上がるのか考えます。

「経済発展の鍵は文化にあり」ですよ。

この店「Music Lounge Brave+」も、文化の発信地であり、楽しい人生の入り口にしたいんです。

でもなかなか難しいですよね。そのことに対してジレンマってあります?

今のこの国だと仕方ない、と思っています。私自身、両親が公務員で「いつまで音楽やってんの」なんて未だに言われますし(笑)。音楽は趣味でやるもの、遊びの延長。それではダメなんです。そうやって文化をおざなりにする風習を変えなければいけません。「あった方がいい」ではなく「なくてはいけない」ものなんです。

それを若い人たちにも伝えていかなければいけないですよね。

さっきの思い続ければ…の話じゃないんですが、実は私、善幸くんが私をドイツに連れて行ってくれるのを待ってます(笑)。

それはもう、ぜひ行きましょう!

善幸くんとは違う意味の挑戦です。私にとってドイツはすごく憧れの国なんです。だってベートーヴェンやバッハがいた国ですよ。そこで私のピアノが……。

K助さんのピアノが嫌われるはずはないと、私は信じています。

それが分からない! どうしてですか!?

日本人にしか弾けないピアノだから、だと思います。

まあ、曲がりなりに37年も日本人ですし、いろいろあって私にしか弾けないピアノだという自負はありますが(笑)。じゃあ逆説的に、ドイツ人にしか叩けない和太鼓ってあると思います?

私はあると思います。もちろん最初はないと思ってましたよ。手足の長いドイツ人がやっても様になるわけがない、と。ところが、デュッセルドルフの太鼓のチームが日本人には出せない、私には出せない太鼓の音を出すんです。感動しますよ! 太鼓が教会の音みたいに聞こえるんです。「ゴーーーン!」って。

それこそカルチャーじゃないですか!

カルチャーですよ。教会で太鼓のコンサートをやった時も、私の音より彼らの音の方が教会にマッチしてるんです。刷り込まれてきた文化があるということです。逆に言えば、ドイツの人がK助さんのピアノを認めるってことですよ!

怖いってば!(笑)

世界で活躍する和太鼓・津軽三味線奏者の木村善幸さんは、大きな挫折を経て立ち直り、日本の文化を愛し、受け継ぎ、世界へ発信しながらも、世界で奏でられる日本の文化に耳を傾けられる熱い文化人でした。

(撮影:留木つばさ)

Music Lounge Brave+
HP: https://ml-brave.com/
住所:札幌市中央区南5条西4丁目バッカスビル9F
アクセス:南北線「すすきの駅」から徒歩1分
TEL:011-252-9460
営業時間:Open 20:00~3:00
休日:日・祝
STAGE TIME:21:30 / 23:00 各30分程度
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田中K助